青森県立中央病院

新型コロナウイルスワクチンの効果に関する研究(第2報)

2021.12.16 更新

1.はじめに

青森県立中央病院では、2021年3月10日より医療従事者を対象とした先行ワクチン接種(ファイザー社製)を実施し、ワクチン接種後の抗体価の推移・分布について調査研究を行ってきた。今後、3回目ワクチン接種が計画されているため、現在まで得られた抗体価の推移・分布について報告する。

2.研究課題について

青森県立中央病院の職員のうち、ワクチン接種を受けた職員を対象として以下の二つの研究を実施した。
 
(1) 研究1)ワクチン接種前後の抗体価推移について(抗体価推移研究)
薬剤部、臨床検査部、感染管理室の職員のうち、研究参加に同意を得た職員を対象として測定用の採血を以下のタイミングで実施し、抗体価の推移を検討する。
① 1回目ワクチン接種前
② 1回目ワクチン接種 1週後
③ 2回目ワクチン接種 1週後
④ 2回目ワクチン接種 4週後
⑤ 2回目ワクチン接種 3月後
⑥ 2回目ワクチン接種 6月後
 
(2) 研究2)ワクチン接種後一定期間経過後における抗体価分布について(抗体価分布研究)
2回目ワクチン接種を受け、研究参加に同意を得た職員を対象として、一定期間を経過した時点における抗体価分布を検討する。
 
(3) 倫理的事項
なお、これら二つの研究は青森県立中央病院倫理審査委員会の承認を得て実施した。

3.対象

(1) 抗体価推移研究
新型コロナウイルスワクチン接種前、同1回目接種1週後、同2回目接種1週後・4週後の採血は、いずれも男性29名、女性71名、合計100名。ただし、同2回目接種3月後・6月後では若干名の採血が実施できなかったため、3月後は男性26名、女性68名、合計94名、6月後は男性28名、女性68名、合計96名であった。

表1 抗体価推移研究 男女別参加者数

1回目
1週間後
2回目
1週間後
2回目
4週間後
2回目
3月後
2回目
6月後
男性 29 29 29 26 28
女性 71 71 71 68 68

(2) 抗体価分布研究
参加者は男性88名、女性302名、合計390名であった。2回目ワクチン接種を受けてから採血実施までの日数を、6か月(採血後151日以上180日まで)、7か月(181日以上 210日まで)、8か月(211日以上240日まで)に分けて検討した。さらに参加者を年代別に分別し各年代の 抗体価についても検討した。
月別、年代別の参加者は表2、表3に示す。

表2 抗体価分布研究 男女別参加者数(月別)

6か月 7か月 8か月
男性 4 35 49
女性 9 83 210

表3 抗体価分布研究 男女別参加者数(年代別)

20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代以上
男性 16 22 22 14 14
女性 52 80 92 53 25

4.抗体価測定方法

(1) 測定方法
採血で得た検体を検査するまでの間、マイナス20度以下の冷凍庫で保管し、検査実施日に冷凍庫から取り出し、室温で融解後、VITROS5600(オーソクリニカルダイアグノスティック社)、ビトロス®SARS-CoV-2 Quant IgG抗体試薬(オーソクリニカルダイアグノスティック社)を用いて、IgG抗体価を測定した。
 
(2) 有効域の判断
IgGの有効判断については、IgG抗体価と中和抗体保有率との関連から、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA)が指標として示している110 BAU/mLを有効性判断に利用した。

5.結果

(1) 抗体価推移研究
ワクチン接種前の採血では抗体価は全例測定限界以下であ った。このため下記図表には表示していない。
 
1回目ワクチン接種1週後では抗体価が上昇している職員はわずか3名で、他は検出限界以下であった。

2回目ワクチン接種1週後が最も抗体価の平均値が高く、以後経過とともに低下し、2回目ワクチン接種6月後(平均195.6日)の抗体価は、2回目ワクチン接種1週後と比較して男性6.1%、女性6.2%に低下していた(図1)。2回目接種1週後・4週後は、検査上限を超えている職員もおり、低下率はさらに低いと予想される。
 
また、1回目ワクチン接種1週後では有効域の抗体価を保有する職員はいなかったが、2回目ワクチン接種1週後・4週後では全例が有効域にあった。

しかし、2回目ワクチン接種3月後では有効率が低下し、2回目ワクチン接種6月後の有効率は男女ともに約6割に低下した(図2)。


図1 ワクチン接種時期別男女別 IgG 抗体価平均値
 


図2 ワクチン接種後時期別男女別 IgG 有効率
 

(2)抗体価分布研究
ワクチン接種後のIgG抗体価の平均値は、採血日が6か月、7か月、8か月の月数順に低い値を示しており、性別では女性の方が男性よりIgG抗体価が高い傾向があった(図 3)。
またワクチン接種後のIgG抗体価有効率を見ると男性ではワクチン接種7か月・8か月 、女性でもワクチン接種後8か月には有効域に含まれている割合は半数以下であった(図4)。 
年代別に検討したところ、男女ともに年代が上がるにつれてIgG抗体価は低くなる傾向があり、性別では各年代ともに女性の方が男性よりも高い傾向があった(図5)。
なお、 年代別の検討ではワクチン接種後月数を図表として示していないが、各年代で月数に偏りは見られなかった。


図3 ワクチン 2回目 接種後 月数別男女別 IgG 抗体価 平均値
 


図4 ワクチン2回目接種後月数別男女別IgG有効率
*6か月では対象人数が数ないため参考値
 


図5 ワクチン2回目接種後男女別年代別IgG抗体価平均値
 


図6 ワクチン2回目接種後男女別年代別IgG有効率
 

6.考察

IgG抗体価の有効判断については、FDAが示した血漿製剤の基準となる原料血漿の指標を用いた。アメリカ合衆国をはじめとする諸外国ではすでにCOVID-19診療に血漿療法が用いられている。この治療で使用される血漿製剤の原料血漿は、新型コロナウイルス抗体価が高いことが条件であり、その指標が示されている。
本来はウイルスを中和する抗体である中和抗体の力価を指標とするべきであるが、中和抗体の測定は容易ではなく、測定が容易なIgG抗体を用いることもある。IgG抗体価と中和抗体保有率との相関により両者の関連が示された数値が上記指標であり、今回の検討ではその値を有効性判断に利用した。
 
今回の結果から、2回目接種後6か月を過ぎるとおよそ半数は有効域を外れ、接種後7か月、8か月ではさらに減少することが確認された。
新型コロナウイルスIgG抗体価が有効域にない場合は感染に対する抵抗力が落ちることでいわゆるブレイクスルー感染が起きる確率が高くなることが予想され、その結果として周囲への感染源となる可能性がある。そのため、集団免疫の観点からは、追加接種が必要な状況である。集団免疫としては8割以上の有効抗体保有者が必要と考えられる。
一方で、抗体価が有効域を外れた状態で新型コロナウイルスに感染した場合には、ワクチン接種により感作された免疫担当細胞が有効な抗体を速やかに産生し抗体価が上昇すること、抗体価以外の別の免疫経路によるウイルスへの抵抗力が存在すること、などから新型コロナウイルス感染症の重症化予防としての効果は保たれると考えられる。
 
抗体価分布研究のワクチン接種後6か月の採血者におけるIgG有効率は、抗体価推移研究の2回目接種6月後のIgG有効率との間で乖離していた(抗体価分布研究:男性100%・女性88.9% vs 抗体価推移研究:男性57.1%・女性61.8%)。その原因は、抗体価推移研究の2回目接種6月後の採血日数は平均195.6日と180日を超えており、平均年齢が異なっていること(抗体価分布研究:男性42.9歳、女性27.8歳 vs 抗体価推移研究:男性39.3歳、女性38.6歳)、抗体分布研究ではワクチン接種後7か月の分類に入っていること、またそれぞれの研究に含まれる人数の違い(抗体価分布研究:男性4名、女性9名 vs 抗体価推移研究:男性28名、女性68名、合計96名)によるバイアス、と考えられる。つまり、抗体価分布研究のワクチン接種後6か月の有効率は参考値と考える。
 
現在の国の方針では、新型コロナウイルスワクチン2回目接種から8か月以上経過した国民に対して新型コロナウイルスワクチン3回目接種を推奨している。6か月を超え、8か月未満に新型コロナウイルスワクチンを接種することは可能であるが、詳細には新型コロナウイルス感染症によるクラスターを発生している医療機関に限られている。今後、1回目・2回目接種と3回目接種とで異なる製剤を用いる交差接種や第2回ワクチン接種後8か月未満でも接種が承認される見込みである。

7.まとめ

体調によるワクチン接種困難者やワクチン接種が認められていない年少者を守るためにも、ワクチン接種が禁忌となるアナフィラキシー経験者を除き、新型コロナウイルスワクチン3回目接種を積極的に推進することは、集団免疫の維持および新型コロナウイルスを克服するために重要である。

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